爆発星雲の伝説(ブライアン・オールディス)

そして今日はオールディスの短編集を読みました。

表題作、ペテン師的主人公が化け物だらけの惑星から何とか逃げ出そうと頑張るさまは結構おもしろい。あと、内宇宙めいたたわごとが延々と続き最後に驚きのオチが明かされる「断片」、兵士の日常と戦いの風景を描いた「心臓とエンジン」など。
だが一番面白かったのは、不時着した惑星で一人原住民の神を演じる「神様ごっこ」だろう。話は彼が神となった時点よりももっと後の場面から始まる。具体的には彼の元を訪れた調査隊が原住民とそのペットの生態を調査し、秘められた歴史を解明し去っていくというただそれだけのものなのだが、原住民の神を演じる彼の哀愁とやり場のないネガティブな感情はなかなかに神様らしい重々しいものがある。

ようこそ女たちの王国へ(ウェン・スペンサー)

昨日は問題作を読みました。

ようこそ女たちの王国へ (ハヤカワ文庫SF)

ようこそ女たちの王国へ (ハヤカワ文庫SF)

男女比がいちぢるしく崩れた世界を描いたSFというと、例えば『月は無慈悲な夜の女王』での月植民地が思い出される。セックスの問題を取り入れたSFなら、フィリップ・ホセ・ファーマーの『恋人たち』が挙げられる。

それらと本書の違いは、ただ一つだ。

二〇〇五年に刊行された、スペンサーには珍しい一話完結の作品ですが、男女逆転世界をはじめとする設定が斬新、キャラクターがおもしろいと、おおむね好評でした。ここで“おおむね”と書いたのは、「なぜ、男子の出生率が極端に低いのか、説明がまったくない」などの批判もあったからです。
たしかにそのとおりで、本書には作品背景の根幹に関する言及がまったくありません。(訳者あとがきより)

そのとおり。例えば『月は無慈悲な夜の女王』では、なぜ月植民地に女性が少なく住人が特異な婚姻関係を結んでいるのかの説明がはっきりなされるし、『恋人たち』においても同様の状況説明はきちんとなされる。曰く、月植民地に女性が少ないのはもともと流刑地だったから。曰く、自分以外誰もいないはずの惑星に女性がいるのは宇宙船が墜落したから。大事なのはそれらの作品群においてあくまでSF的な枠組みによる状況説明がしっかりされることだろう。だがしかし、本書『ようこそ女たちの王国へ』(変な邦題だ。ようこそされるのは読者であり決して主人公ではない)では、前述のようになぜ男子の数が少ないのかに関する説明はされない。それじゃあダメだろSF的に考えて、ということである。
もっとも通常の世界と違う状況とそれによる世界観(語の正しい意味において)の差異、それらが読者にもたらすスペキュレイションはこの作品の場合かなりのものであり、多分それこそ作者の意図したものだろう。でもやっぱりSF文庫から出る必然性をあまり感じないし、ルルル文庫タニス・リーが出るくらいなんだから、そうだなあ……普通にFT文庫、あるいはガガガあたりで出ていたら何の違和感もなく嫁た、もとい読めたんじゃないか……。
まーキャラ小説としてなら文句なく読める、というか文句を言ったら申し訳ないレヴェル。そしてラストがハーレムエンドというのももちろん世界設定的に問題ないのだし、よくよく見たらハーレム&孕みエンドだったことにはいささか腎虚的な意味で不安が残るものの問題ない。多分。

補遺1

スペンサーの作品が、主人公に限らず脇役までも個性豊かなのが頷けます。なお、ひと言つけ加えると、スペンサーは大の日本アニメ・ファンとのことです。(訳者あとがきより)

多分アレだ、『天地無用!』とか。

補遺2

作者ブログの日本語版カバーへの反応に笑った(ttp://wen-spencer.livejournal.com/81829.html)。
ちなみに原書はこれ。
A Brother's Price
ふむ。

補遺3

部室内での「エナミカツミはこういう女権ものによくイラスト書くよね、『制覇するフィロソフィア』とか『銃姫』とか」という話題。(『制覇するフィロソフィア』はどっちかとゆーと『ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?』なのだが)。

弁護士は奇策で勝負する(D・ローゼンフェルト)

弁護士は奇策で勝負する (文春文庫)

弁護士は奇策で勝負する (文春文庫)

今日は法廷ミステリを読みました。悪くない出来。

この種のものは話のパターンがとてつもなく限られてしまうよなあ。ミステリとはたいていの場合あっと驚く真犯人が明かされるものだけれど、なら舞台を法廷としたとき被告人はもちろん真犯人ではないし、主人公となるようなキャラクタは弁護士しかいない。だから『デッド・リミット』や逆転裁判2最終話などは変化球のようで面白いものだけれど、やはり直球あってこその変化球なので「弁護士が無罪の被告人を救うため八方手を尽くす」ようなものは忘れずに読んでおきたい。

というわけでこれ。「奇策で勝負する」というだけあり、冒頭での主人公の取る方法はものすごくトリッキィだが(ややもするといわゆる口の上手い悪徳弁護士的なイメージ)、実際は先ほども言ったような感じのオーソドックスな法廷ミステリなのである。
もっともこの弁護士アンディ・カーペンターは、「タフな台詞を言うつもりがおちゃらけた減らず口に変わってしまう」類の人間なので、キャラクタだけみると法廷モノらしいシリアスさ(例えば『評決のとき』のような。もっともあれは題材自体が重かったけど)はほとんど感じられない。あるいはそこも魅力のひとつかもしれない。

解説見るとシリーズ三作目が面白そうなんだけど、2作目までしか訳されてないんだなあ……。

千の脚を持つ男(編:中村融)

千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選 (創元推理文庫)

千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選 (創元推理文庫)

アンソロジーをおもちゃ箱に例えるのはもはや定石を通り越して陳腐だけど、じゃあアンソロジーの魅力って何なの、と聞かれるとやはりそのバラエティとお得さを挙げないわけにはいかないだろう。そして時代別・地域別・テーマ別などいろんなアンソロジーがあるわけだけど、それらを感じ取れるのはずばりテーマ別アンソロジーなわけである(テーマに縛られた中でのさまざまなバラエティ、ということだ)。時代別・地域別のアンソロジーはそもそもいろんな毛色の作品があって当然だし、それらの中から一貫した何かを感じ取ろうと努力するのも嫌いではないけれど、テーマアンソロジーでは編者が(あまりテーマに合いそうにない)お気に入りの一編を「いやこれは広義の○○だから!」と解説で述べつつ無理やりねじ込んだりしているのが面白いし、いやそれはともかくテーマアンソロジーが一番好きかなあという話。

と、いうわけで『千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選』である。『影が行く―ホラーSF傑作選』と『地球の静止する日SF映画原作傑作選』とこれとでどうやらアンソロジー三部作ということらしいのだが、実際どう評価するかというと、うーん。
僕にとっての神アンソロジーが一冊あって、それは『影が行く』である。バラエティは豊富すぎるほど豊富で、スライム(超強い)ありエイリアンありゾンビあり吸血鬼あり狂ロボットあり狂人ありクラーク・アシュトン・スミスありでまさに至高の一冊といって良い。褒めすぎか。
翻って本書。致命的な欠陥が一つあって、あくまでこれが「地球怪物ホラー」アンソロジーだということ。つまり宇宙怪物が出てくるわけでもなし、たとえば表題作、「ティンダロスの猟犬」の作者の短編もキレというか予測不可能さ・けれん味が無さ過ぎる。収録作のほとんどが割りと視覚的なのはすごいと思うけど、おもちゃ箱をひっくり返してみたらレゴしか入ってなかったみたいな、あるいは焼肉屋に行ったらタレが一種類しかなかったみたいな、文句をつけるのは大人気ないし、確かに面白いことは面白いんだけどこじんまりしすぎていて物足りないというか、大体そんな感じ。テーマアンソロジーが好きだけど、テーマ絞りすぎるのも問題なのかなあ。そんなことを思ったり。

『フランケンふらん』と交互に読んでたから「お人好し」がかぶって参った。

鉄球姫エミリー(八薙玉造)

鉄球姫エミリー (鉄球姫エミリーシリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

鉄球姫エミリー (鉄球姫エミリーシリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

川上稔に似てるよと言われて、下ギャグとか説明台詞とかに確かにそんなものを感じたりもしたけど、実際川上稔はあんまり読んでないしよく分かんないや。


剣と魔法の物語、ではなく鉄塊と鉄塊の物語。ラストバトルからして鎖付き鉄球対鉄槌という色気のない話。いまいち視点人物が定まらないところや序盤のタルさ、輝鉄(唯一のマジックアイテムというか素材)の存在意義の無さなどに新人らしい荒削りさなど感じてしまうかもしれないが、書くべきなのはこれが珍しく「骨太」なラノベだということである。
そう感じたのはやはり登場人物がかなり死ぬことと、それにもかかわらずエモさと媚とがほとんど排除されていることからだろう。両陣営が全く閉じていることとそれによる「ごん、お前だったのか」的な敵対関係におけるエモさの排除や、脇役二人の再登場可能性と続刊の不可能性など語るべき点は多いが、それを書くにはあまりにも僕の睡眠時間は少ない。

スターダスト(ニール・ゲイマン)

スターダスト (角川文庫)

スターダスト (角川文庫)

ワールドコン行ったとき、展示ホールで映画の宣伝してたので翻訳形態について聞いてみたんだけど、どうやら原書にふんだんに付いてる挿絵は全部カットされるっぽいね、というのが先月の話。
まあ原書でも挿絵付き版と無し版があるらしいので、「挿絵付き版訳せ!」とかは言わないし、「挿絵付き原書持ってる俺は勝ち組」とかも言わない。「チャールズ・ヴェスの柔らかいタッチの挿絵がどうのこうの」とかも言わないし、「さすがにイタしてるシーンの挿絵があるってのはどうなのよ」とかも言わない。うにゃん。
むしろ挿絵付き原書をグラフィック・ノベルとして売ってることを問題としたいね。だって俺予告編見た直後にコミックなのかと勘違いして買っちゃったし。
ただしこの『スターダスト』原書の挿絵、明らかに挿絵の範疇を超えている気がしてならない。ほぼ二ページに一ページは挿絵があるし、見開き使ってるところもある。小説というよりもコミックというよりも、むしろ「大人向けの絵本」と言ったほうが良さげな感じ。だとしたらグラフィック・ノベルとして出すのもあり、なのか……?だんだんアメコミのことが理解不能になってきた。
内容は『ネバーウェア』とどうしようもなくかぶるけどそれはまた別の話で、とにかく展開が早過ぎる。「星」を見つけるのがやっと半分で、その後の展開のばたばた具合といったら『移動都市』終盤の皆殺し展開を余裕で上回るレベル。まあ金髪ツンデレストーリィなのでゲイマン初心者には良いんじゃないですか。
あと主人公の名前が妙に気になる。訳書だとトリストラン、映画ではトリスタン。原書ではtristran。トリストラムの町を思い出しますね。あーdiabloやりたくなってきた。

近況

最近読んだやつ。

解説で「『消えた少女』は導入こそすばらしいものの展開にがっかり」とあって笑った。内容は普通。

ボブ・リーのスナイパー人生の始まり。そして殺人を決意するまでのメンタリティという点で、アールとボブの性格に類似を感じる。あと『真夜中のデッド・リミット』とも類似。

  • 361(ドナルド・ウェストレイク)

悪くないけど少し何かが足りない気が。

短編集。レナルズなのに分厚くない。体を両極端に改造していった者たちの触れ合いを描いた「ウェザー」にしんみりしたものの、最後の短編、テンプレ通りの謎々タワー話に爆笑して全て台無しになった。


それでは原稿書きに移ります。以降2ヶ月ぐらい更新しません。