RPG世界ドーナツ説とテッド・チャン「バビロンの塔」(『あなたの人生の物語』収録)
RPG世界ドーナツ説とは、RPGでのワールドマップを用いた移動システムで生じる違和感、それを論理的に解決するものである。
RPGの中で、ワールドマップを横方向に進み、端に辿り着いた次の瞬間、反対側にいる。これは地球の世界地図と同じだし、しっくりくる。問題は縦方向の移動で、上へ上へと進んでいくと、下に出る。よくよく考えてみればこれはおかしい。現実にあてはめるなら、北へ北へ進んでいたら何故か南極に着いていたと同じだ。ワールドマップから判断する限り、この世界は球形をしていない。
じゃあ実際はどんな形なの、というのが問題で、マップの右端と左端をまずくっつけてみる。そうするとマップを水平方向に一周できる形、つまり円筒ができあがる。次に、できあがった円筒の上端と下端をくっつけ、垂直方向に一周できる形を作る。完成するのはドーナツ、浮き輪、部屋の蛍光灯、とにかくそんな形だ。気取ってトーラスと呼んでもいい。とにかくそれが、ワールドマップと移動システムから論理的に導き出されたRPG世界の形である*1。
はじめてこれを聞いたとき、漠然と持っていた違和感が解消され、ちょっとした興奮を味わったことを覚えている。
テッド・チャンの短編「バビロンの塔」は、主人公がある出来事から「世界がどのようにできているか」を理解する、という話だ。舞台は古代バビロニアを彷彿とさせる世界。主人公は天をも貫く高い塔の建設に従事していたはずが、気づけば地表に戻っている。そこから彼は世界がどのようにできているかを論理的に導き出す。言ってしまえばそれだけの短編だ。
それだけの短編なんだけれども、彼が世界の構造を導き出した際に味わう興奮、これはきっと大昔の人が地球が球形だと(いやな日本語だ)発見したときにも同じようなものを抱いただろう。もっといえば、RPG世界ドーナツ説を聞いた私の「うおーすげえ、なんか違和感あったけど、確かに辻褄合わせればそうなるな!」という興奮も、それと似ていたのかもしれない。
取り留めもなく終わる。
- 作者: テッド・チャン,公手成幸,浅倉久志,古沢嘉通,嶋田洋一
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/09/30
- メディア: 文庫
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*1:もっとも、このドーナツ世界が自転や公転をどうしているのかは今ひとつわからない