千の脚を持つ男(編:中村融)

千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選 (創元推理文庫)

千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選 (創元推理文庫)

アンソロジーをおもちゃ箱に例えるのはもはや定石を通り越して陳腐だけど、じゃあアンソロジーの魅力って何なの、と聞かれるとやはりそのバラエティとお得さを挙げないわけにはいかないだろう。そして時代別・地域別・テーマ別などいろんなアンソロジーがあるわけだけど、それらを感じ取れるのはずばりテーマ別アンソロジーなわけである(テーマに縛られた中でのさまざまなバラエティ、ということだ)。時代別・地域別のアンソロジーはそもそもいろんな毛色の作品があって当然だし、それらの中から一貫した何かを感じ取ろうと努力するのも嫌いではないけれど、テーマアンソロジーでは編者が(あまりテーマに合いそうにない)お気に入りの一編を「いやこれは広義の○○だから!」と解説で述べつつ無理やりねじ込んだりしているのが面白いし、いやそれはともかくテーマアンソロジーが一番好きかなあという話。

と、いうわけで『千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選』である。『影が行く―ホラーSF傑作選』と『地球の静止する日SF映画原作傑作選』とこれとでどうやらアンソロジー三部作ということらしいのだが、実際どう評価するかというと、うーん。
僕にとっての神アンソロジーが一冊あって、それは『影が行く』である。バラエティは豊富すぎるほど豊富で、スライム(超強い)ありエイリアンありゾンビあり吸血鬼あり狂ロボットあり狂人ありクラーク・アシュトン・スミスありでまさに至高の一冊といって良い。褒めすぎか。
翻って本書。致命的な欠陥が一つあって、あくまでこれが「地球怪物ホラー」アンソロジーだということ。つまり宇宙怪物が出てくるわけでもなし、たとえば表題作、「ティンダロスの猟犬」の作者の短編もキレというか予測不可能さ・けれん味が無さ過ぎる。収録作のほとんどが割りと視覚的なのはすごいと思うけど、おもちゃ箱をひっくり返してみたらレゴしか入ってなかったみたいな、あるいは焼肉屋に行ったらタレが一種類しかなかったみたいな、文句をつけるのは大人気ないし、確かに面白いことは面白いんだけどこじんまりしすぎていて物足りないというか、大体そんな感じ。テーマアンソロジーが好きだけど、テーマ絞りすぎるのも問題なのかなあ。そんなことを思ったり。

『フランケンふらん』と交互に読んでたから「お人好し」がかぶって参った。