日米・漫画サブタイトル比較 その1
追記:グラフィック・ノベルの定義について重大な勘違いがあったので、あんまり信用しない方がいいです。
漫画のサブタイトルってコミックスの目次についてますけど、よく見ると面白いですよね。ゲーム関係ないのに毎回ゲームのタイトルがついてたりとか、洋楽関係ないのに毎回洋楽ネタに走ってたりとか作者の趣味が分かるものもありますし、一話からずっと二字熟語やら一単語やらにこだわってるやつもあります。じゃあアメコミのバヤイはどうなのかなー、とアメコミ読者の僕が疑問に思うのは当然な流れなのですが、どうやら事態はかなり複雑なようでした。
エントリが超長くなったのでものすごく乱暴ですが今のうちに結論を言います。日米問わず漫画のサブタイトルで毎回継続的に特別なことをやろうと思ったら、道は二つしかありません。
- 見た目をそろえる
- 何かネタを仕込む
「毎回継続的に」というのが曲者で、たとえば『MIND ASSASSIN』のサブタイトルは初期こそ「修飾語+人」というパターンでしたが、巻が進むと考えるのがめんどくさくなったのかそれともネタ切れを起こしたのか、自然消滅してしまいました。アメコミの場合では、その種のサブタイいじりがされるのはいわゆる大人向けのグラフィック・ノベル(数話で完結することが前提)で、子供向け・読み捨てながら長く続くことが見込まれるシリーズではその2つの操作がされることはほとんどありません。しかしながらこの読み捨てタイプのアメコミで、日本の漫画では多分できないある種のサブタイいじりがなされることがあるのです。
以下の文章でそこまでに至った経緯、日米の漫画におけるサブタイトルの実例を画像など用い示していきたいと思います。(スキャン画像が多いので、続きはひとまず非表示)
日本の漫画におけるサブタイトル
まず、サブタイトルが作中でどう表示されているか見てみましょう。
(『TWO突風!』5巻 藤井良樹、旭凛太郎 秋田書店)
目次として単行本に載りますから、あまり字数は費やせません。多くても二行ぐらい。文字のサイズも特に大きくありませんし、場所もページの端っこだったり扉絵と同ページだったりで、サブタイトルを繰り返しても漫画そのものを食わないような工夫が一般的にされているといえます。
サブタイトルそのものについてはどうでしょうか。
まず、サブタイトルになにか元ネタがある漫画が思い浮かびます。
(『みつどもえ』1巻 桜井のりお 秋田書店)
このタイプだと、ゲームネタで統一した『HELLSING』が有名でしょう。
また、サブタイトルの形状を統一している漫画もあります。
(『賭博黙示録カイジ』6巻 福本伸行 講談社)
(『バジリスク』2巻 山田風太郎、せがわまさき 講談社)
『バジリスク』は10on10の忍術勝負ということで、それぞれの残り人数がそのままサブタイトルになっています。他にも一単語で統一されている『DEATH NOTE』『シグルイ』などが、形状を統一したタイプだといえるでしょう。
これらの例から、サブタイトルで継続的に特殊なことをやるには二つの道があるといえそうです。
- なにかネタを仕込む。意味の操作。
- 形状や語尾を共通させる。見た目の操作。
アメコミ/グラフィック・ノベルの場合
ではアメコミはどうなのでしょうか。アメコミの中でも大人向けの、いわゆるグラフィック・ノベルを見てみましょう。
(『バットマンHUSH』1巻 ジェフ・ローブ、ジム・リー ジャイブ)
文字は日本の漫画と同じように小さく、字数もそれほどありません。作中でサブタイトルを載っける作品がほとんどで、扉絵のところに書いていたのはアレックス・ロスの諸作品と"BATMAN THE LONG HALLOWEEN"ぐらいでした。
サブタイトルの内容に目を向けましょう。サブタイトルにネタを仕込むことは、日本の漫画だけでなくグラフィック・ノベルでもなされています。以下に挙げるのは、祝日ごとにゴッサム・シティのマフィアが殺されていくさまを描いた"BATMAN: THE LONG HALLOWEEN"です。プロローグとエピローグ以外は、サブタイトルとして祝日の名前がつけられています。
- CRIME
- THANKSGIVING
- CHRISTMAS
- NEW YEAR'S EVE
- VALENTINE'S DAY
- ST. PATRICK'S DAY
- APRIL FOOL'S DAY
- MOTHER'S DAY
- FATHER'S DAY
- INDEPENDENCE DAY
- ROMAN HOLIDAY
- LABOR DAY
- PUNISHMENT
("BATMAN: THE LONG HALLOWEEN" Jeph Loeb, Tim Sale - DC COMICS)
あとアメコミで元ネタありのサブタイトルというと、"WATCHMEN"が挙げられるでしょう。詳しくは自分で検索してください……と思いましたが一応書いておきます。ちなみに各章のラストでネタを割っているので、元ネタが何か探す必要がありません。
- AT MIDNIGHT, ALL THE AGENTS... (Bob Dylan)
- ABSENT FRIENDS (Elvis Costello)
- THE JUDGE OF ALL THE EARTH (創世記18章25節)
- WATCHMAKER (Albert Einstein)
- FEARFUL SYMMETRY (William Blake)
- THE ABYSS GAZES ALSO (Friedrich Wilhelm Nietzsche)
- A BROTHER TO DRAGONS (ヨブ記30章29-30節)
- OLD GHOSTS (Eleanor Farjeon)
- THE DARKNESS OF MERE BEING (C. J. Jung)
- TWO RIDERS WERE APPROACHING... (Bob Dylan)
- LOOK ON MY WORKS, YE MIGTY... (Percy Bysshe Shelly)
- A STRONGER LOVING WORLD (John Cale)
"WATCHMEN" Alan Moore, Dave Gibbons - DC COMICS
そしてまた、サブタイトルの見た目をそろえることもされています。
ここで"V for Vendetta"を挙げなければモグリでしょう。章のサブタイトル全てVで始まる語を使う凝りようです。
BOOK1 - EUROPE AFTER THE REIGN
- THE VILLAIN
- THE VOICE
- VICTIMS
- VAUDEVILLE
- VERSIONS
- THE VISION
- VIRTUE VICTORIOUS
- THE VALLEY
- VIORENCE
- VENOM
- THE VORTEX
BOOK2 - THE VICIOUS CABARET
- THE VANISHING
- THE VAIL
- VIDEO
- A VOCATIONAL VIEWPOINT
- THE VACATION
- VARIETY
- VISITORS
- VENGEANCE
- VICISSITUDE
- VERMIN
- VALERIE
- THE VERDICT
- VALUES
- VIGNETTES
BOOK3 - THE LAND OF DO-AS-YOU-PLEASE
- VOX POPULI
- VERWIRRUNG
- VARIOUS VALENTINES
- VESTIGES
- THE VALEDICTION
- VECTORS
- VINDICATION
- VULTURES
- THE VIGIL
- THE VOLCANO
- VALHALLA
どうやらグラフィック・ノベルと日本の漫画を比べたとき、それほどサブタイトルの扱いに差異はないと言えそうです。もっとも目次にサブタイトルを利用しているものは格段に少なく、三作程度しか確認できませんでした。
アメコミ/非グラフィック・ノベルの場合
それではグラフィック・ノベルではないアメコミ――しばしば読み捨て扱いされ、「アメコミ」といったとき多くの人が連想する「マッチョがタイツ着て悪党をフルボッコにする」ような漫画――の場合はどうでしょうか。マーヴルのクロスオーバープロジェクト『エイジ・オブ・アポカリプス』の一タイトル、『ジェネレーション・ネクスト』を見てみます。
(『エイジ・オブ・アポカリプス/ジェネレーション・ネクスト』 スコット・ロブデル、クリス・バチャロ 小学館プロダクション)
サブタイdekeeeeeee!!もっともこれは極端な例ですが、このタイプのアメコミでかなり自己主張の激しいサブタイトルがあることは覚えていても良いでしょう。サブタイが紙面の四分の一占めていたり、やたら大きいフォント使っていたり、ケバケバしい色使ってたり。
じゃあサブタイトルの内容はどうかというと、見た目が統一されることも何かネタが仕込まれることもありません。考えてみれば当然で、このタイプのアメコミでは原作や作画が都合によってチェンジされることがありますから、継続的に何かやろうと思ってもどだい無理な話です。だいたいグラフィック・ノベルとは違い単行本が出ないのが当たり前だったわけで(今はそうでもないらしいのですが)、どうせ読み返しもされないんだからそんなことやっても意味がないと思っていたのかどうかはともかく、とにかくこのタイプのもので前述のようなサブタイいじりがされることはないといっていいでしょう。
しかし。サブタイトルのデザインに着目した場合、日本の漫画にもグラフィック・ノベルにもない、ある種の操作を発見することがあるのです。
(『エイジ・オブ・アポカリプス/ジェネレーション・ネクスト』 スコット・ロブデル、クリス・バチャロ 小学館プロダクション)
見てのとおり、サブタイトルやスタッフ名がパイプの落書きとして書かれています。このようにクリス・バチャロは絵の中にそのままサブタイトルを書く手法を用いることが多いのですが("STEAMPUNK"などを見ても)、彼が作画を担当したグラフィック・ノベル『デス』ではそれが一切されていません。
それからこんなものもあります。
(『エイジ・オブ・アポカリプス/Xマン』 ジェフ・ローブ、スティーブ・スクロース他 小学館プロダクション)
サブタイトルそのもののデザインに関して、非グラフィック・ノベルのアメコミはおそらく随一といえるのではないでしょうか。大人向けとされるグラフィック・ノベルではなぜこういった手法が使われないのか、どうしてこんな差異が生じるのかについての考察はまた次回。