アルベマス(フィリップ・K・ディック)

アルベマス (創元SF文庫)

アルベマス (創元SF文庫)

さて。この『アルベマス』の主人公は「SF作家フィリップ・K・ディック」とその友人ニコラスである。面白いのが現実の自分に起きたこと(ハーラン・エリスンに短編を提供したり、『高い城の男』が大きな反響を浴びたり、『流れよわが涙、と警官は言った』を書き上げたり、などなどなど……)を真面目に書きつつ、政治レベルではフィクションを展開していっていることだろう。これにより読者は奇妙な位相のズレを味わうことになる。
政治レベルでのフィクション。それはアメリカがフェリス・F・フレマント――イニシャルはFFF、数秘術を持ち出すまでもなく666である――という政治家の下で統制国家へと変貌し、次第にそれを強めていっていることである。突然の家宅捜索や警察による罠は日常茶飯事のものだし、PKDとニコラスは相互に密告しあうようにそそのかされる。

さておおむねはこんな感じである。体制への反抗と挫折、しかしかすかに見える未来への希望……なんだ自分で書いていて気づいたがまるっきりオーウェルの『1984』じゃないか。しかしこれ自体はディストピア小説のお約束といってもいいだろう。問題なのは本書で展開されストーリーの軸ともなる異様な神学である。一言でいうと、「人口衛星から『神』が選ばれた者たちにメッセージを送る」。何じゃそりゃ。とにかく『ヴァリス』と『聖なる侵入』も読まないと。


あと読んでいて同じくPKDの『暗闇のスキャナー』(おっと今は『スキャナー・ダークリー』だっけ)との共通点をかなり感じたのだが、これはむしろ『暗闇のスキャナー』も同じくディストピアを舞台としているからだろう(もっともこの作品で権力を持つのは統制国家ではなくドラッグとその売人たちなのだが)。