Batman: Gotham by GaslightBrian Augstyn, Michael Mignola, Eduardo Barreto

100年前のゴッサムシティを舞台にしたバットマンブルース・ウェインの先祖の話というわけではなく、ただ単に基本設定を100年前に移したもの。主人公はブルース・ウェインだし、その他のキャラクタも普通に登場する。表題作に加え、"Master of the Future"を収録。

Gothem by Gaslight

『エルスワールド』という概念がアメコミにはあって、もともとのお話からズレたストーリー(スーパーマンが老いて隠居した近未来の話とか、バットマンが老いて隠居した近未来の話とか、プロフェッサーXがXメン創設前に死んでマグニートーが善キャラやってる並行宇宙の話とか)を勝手に作るとき重宝する、らしい(最後の一個は微妙に違うけど)。つまりこれは日本ならそれなんて同人?って言われてしまうのがアメコミだと出版社公認で作れるということ……!!なんという自由度の高さ。そしてそんなエルスワールドものの始まりにして傑作が本書だという。
でもまたなんで100年前?という疑問はあるわけで。確かにガス灯に照らされて長く伸びるバットマンの影にはいささか風情があるものの、話的にはヒーローの引退した近未来や、正史と展開の異なる並行宇宙に気をそそられるのが当然だろう。
しかし考えてもみよう。近未来ではなく過去に舞台を置くことで何ができるのかを。催涙ガスやワイヤーなど現代的なハイテク装備は消え去るが、その代りにより激しい肉弾戦が可能となる(バッタランすらここでは投げナイフで代用される)。それになんといっても、過去の著名な人物を登場させることができるのだ。作中でフロイト博士に「コウモリの夢をよく見るんです」と相談するブルース・ウェインの姿はある程度ユーモラスと言える。
それから。百年前の著名人というとホワイトチャペルの殺人鬼にしてわれらが友、切り裂きジャックである。100年前のバットマンはそのキャリアの始まりとして、ゴッサムシティに引っ越してきた切り裂きジャックといきなり対決することになる。これはキツい。本家バットマンの一年目(イヤー・ワン)よりよっぽどキツい。
もっともバットマンバットマンなので、切り裂きジャックを捕らえ、また両親殺害の真相を知ることに成功する。しかしこのエピソードの悪役には割と哀しさを感じたりもするのだが。
ミニョーラはどうかというと……ヘルボーイと比べ、塗りの人が違うとかなり印象が違うなあコレ。でも液体の描き方とかは共通してる気もする。

Master of the Future

さて、そろそろ僕たちはバットマンブルース・ウェインの萌えキャラっぽさを再確認しなくてはならないだろう。自分の正体がバレるのを恐れるあまり、パーティーの席上でバットマンをDISりだすブルース・ウェイン!それにムキムキする彼の幼馴染!「ブルース、あなたはそんなことを言ってるけど、バットマンは私を助けてくれたのよ!」あっちゃあ。
さてこのエピソードでは、前回両親殺害の真相を知って自分のトラウマが消えたため、もはや悪党をぶん殴る仕事を続ける意味を失ってしまったブルース・ウェインが登場するわけ(もっともバットマンバットマンなので、結局ゴッサムの危機に立ち上がってしまうのだが)。
こっちの悪役はいい感じにねじが外れてて面白い。バットマンに機械人形を壊されて「私のたった一人の友人をよくも!」なんて言ったり。