汚れた7人(リチャード・スターク)

汚れた7人 (角川文庫)

汚れた7人 (角川文庫)

ジェイムズ・ウェストレイクが死んでしまったので、彼が別名義で書いた悪党パーカーシリーズのうち最近復刊されていた七冊目を読んだ。
このシリーズは犯罪小説ものなので、大抵は「デカいヤマをどうやるか?」という話である。深夜に一つの町を丸ごと封鎖したり、テレビ説教師の収益をまるごといただいてしまったり、主人公パーカーは過去たくさんの仕事をこなしてきた。彼が本書で挑んだのは「フットボールのチャリティ試合の収益」だが、物語はその数日後、隠れ家を五分ほど空けていた彼が異変に気付くところから始まる。情婦が殺され、奪った金が全額何者かに持ち去られていたのだ。かくしてプロ犯罪者のパーカーはアマチュア探偵の真似をし出すことになる。
といってもシリーズがシリーズなのでドタバタタッチになったりすることなどなく、パーカーの探偵業務は犯罪行為を行うのと同様淡々としている。果たして変化球な構成にする必要があったのかと思うぐらいだが、このシリーズ特有の中盤での視点変更で、その感想を改めなければならなかった。ここで視点は――ネタばらしになってしまうが――パーカーの情婦を殺し金を奪った男に移る。本書のもうひとりの主人公といっても過言でない彼がこの犯罪を行った理由、そして彼のパーカーへの恐怖が語られ、悪党パーカーシリーズでありながら悪党パーカーシリーズではない別のものを読んでいるような不思議な感覚を抱いてしまう。構成を変えた意味はあったのだ。
そしてラスト、パーカーに刃向った他の人間がそうなるように、彼もまたパーカーに破滅させられる。他の周りの人間に破滅と不幸をもたらすパーカーはまさしく悪党であり、転落がノワールの条件ならば本書は裏返しにされたノワールともいえるだろう。オチはどこか見覚えもあるが、良いものを読んだ。ウェストレイク/スタークよ安らかにねむれ。