インクレディブル・ハルク

2003年のアン・リー版『ハルク』の失敗から反省をしたのか、一新してアクション多めなハルク映画のお出ましである。
なんといっても「先週のあらすじ」とばかりに開始五分でガンマ線照射実験と変身を軽くこなし、ブラジルのスラム街へ潜伏してしまうのだからたまらない。余談だが彼の潜伏するスラム街ファヴェーラは『シティ・オブ・ゴッド』の舞台でもあり、積み重なったコンクリ住居を特殊部隊と追いかけっこする様子はエクストリームスポーツパルクールを髣髴とさせる。


またアン・リー版が人間関係にスポットをあて、肝心なハルクのアクションシーンはほとんど軍隊から逃げ回るだけだったのに対し、今作ははじめから余計なものをそぎ落とし緑色のデカイ人が「ハルク怒った!」などと叫びつつ暴れまわるという、何というか非常に潔いつくりになっている。
当たり前だが、人間ドラマがないわけではない。心拍数が上がると変身してしまうため恋人も抱けない体になってしまったのを嘆いたり、その恋人エリザベスとの逃避行であるとか。しかしそれらは「ハルク」というキャラクターを演出するためのドラマである。例えば、潜伏していた主人公が恋人の前に姿を現してからの展開を見れば分かるだろう。恋人は精神科医といい感じになっていて、でも彼が姿を現すや否やあっさりとよりを戻してしまい、精神科医もあっさりと身を引いてしまう。恋人の葛藤や精神科医のキャラクターは全く描写されない。なぜならこの映画で一番重視されているのは、キャラクターとしてのハルクなのである。そしてアクションシーンこそその核となるものだということだ。
そのアクションシーンで敵役として登場するのがロシア生まれの軍人ボルンスキーで、ハルクに圧倒され強さを求めた彼は超人血清とバナーの血液によってアボミネーションへと変身する。コイツが全体的に巨大な魚人のような外見(背骨が盛り上がって背びれみたいになってたり)をしていて、なかなか気持ち悪カッコイイ。このデカイ人二人の乱闘シーンはかなりの迫力だが、彼らがくるくるゲームチックに動き回るさまはどこかおかしみを伴っている。手を打って衝撃波を起こしたり工業用チェーンを鎖分銅にしたり。


アメコミ好きとしては、冒頭でスターク・インダストリーやシールド長官ニック・フューリーの名が出ていること、ストーリーの中で超人兵士計画と超人血清に触れていることにも注目したい。ラストではアイアンマンの中の人も出てきて意味深な台詞を言い出すし、大規模なクロスオーバーがこれから映画館で拝めるんだろう。その際は是非カート・ラッセルあたりにニック・フューリーを演じていただきたいものだ。